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sageを使ってエンジニアにとって身近な微分方程式を解いてみます。
また、実際にsageを使って出力されたワークシートは、以下のURLで公開しています。
http://www.sagenb.org/home/pub/906/
以下のような抵抗(R)とコンデンサー(C)の回路*1で、
とし、t=0でVcにv0の電圧を掛け、すぐに0にした場合のVc電圧の変化V(t)をもとめてみます。
キルヒホッフの法則から回路を一周したときの電圧降下は0となります。
$$ \begin{array}{l l l} V_C + V_R = 0, V_C = V(t) & \cdots & (0) \end{array} $$ となり、コンデンサーからの電流が\(i(t)=C\frac{dV(t)}{dt}\)、\(V_R(t)=Ri(t)\)であることから、 $$ \begin{array}{l l l} V(t) + RC\frac{dV(t)}{dt} = 0 & \cdots & (1) \end{array} $$ となります。
これをsageを使って解くと以下のようになります。微分方程式の解法にはdesolve関数を使います。
desolve(微分方程式, [求める関数と変数のリスト], [初期値のリスト])
sageへの入力:
# 使用する変数t, C, Rと関数Vを定義します var('t C R') V = function('V',t) # 微分方程式を定義 de = V + C*R*diff(V,t) == 0 # t=0のV(t)を1として、微分方程式を解く des = desolve(de,[V,t],[0,1]);view(des)
\(e^{-\frac{t}{C R}}\)
# 解をR=1, C=1のVの変化をプロットする f(t,R,C) = des plot(f(t,1,1),[t,0,5])
つぎに、t=0から電圧\(V_0\)を掛けて充電した場合のVcの変化を見てみましょう。 以下のような回路*2で、スイッチを1から2に入れたときの変化になります。
$$ \begin{array}{l l l} V(t) + RC\frac{dV(t)}{dt} = V_0 u(t) & \cdots & (2) \end{array} $$
ここで、\(u(t)\)は、単位ステップ関数、
$$ u(t)=\left\{ \begin{array}{l l} 0, & 0 \lt 0 \\ 1, & 1 \ge 0 \\ \end{array} \right. $$
です。
式(1)では右辺が0であり、このような方程式は斉次方程式と呼ばれ、式(2)のように右辺が0でない方程式は非斉次方程式と呼ばれます。 非斉次方程式の解は、
非斉次方程式の一般解 = 斉次方程式の一般解 + 非斉次方程式の一つの解(特解)
から求めることができます。
t=0でV(t)=0であるとすると、A=−V0 となることが分かります。 従って、微分方程式(2)の求める解は、
$$ \begin{array}{l l l} V(t) = V_0(1-e^{\frac{-t}{RC}}) & \cdots & (3) \end{array} $$
となります。
sageへの入力:
v(t, R, C) = (1 - des) plot(v(t, 1, 1),[t,0,5])
ラプラス変換を使用して微分方程式の解を求めることができます。ただし、求めることができるのは一般解ではなく「初期値問題」における特殊解です。*3
ラプラス変換とは、関数\(f(t)\)に\(e^{-st}\) を掛け、t について0 から無限大まで積分したものです。その積分はs の関数\(F(s)\)になるが、これをもとの関数\(f(t)\)のラプラス変換とよび、\(\mathcal{L}(f(t))\)と表します。 $$ F(s) = \mathcal{L}(f(t)) = \int_{0}^{\infty}e^{-st}f(t)dt $$
ここで、\(s\)は\(t\)に無関係な変数であり、\(t\)は実変数である。逆に\(f(t)\)は\(F(s)\)の逆変換とよび、\(\mathcal{L}^{-1}(F(s))\)と表します。
sageへの入力:
var('t s') f = function('f', t) # ラプラス変換のsageでの表現 view(laplace(f, t, s))
\(\mathcal{L}\left(f\left(t\right), t, s\right)\)
主な関数のラプラス変換をした結果を以下に示します。
元の関数 | ラプラス変換結果 |
\(\delta\) | 1 |
\(1\) | \(\frac{1}{s}\) |
\(t\) | \(\frac{1}{s^{2}}\) |
\(t^2\) | \(\frac{1}{s^{3}}\) |
\(t^n\) | \(s^{{(-n - 1)}} \Gamma\left(n + 1\right)\) |
\(cos(\omega t)\) | \(\frac{s}{{(\omega^{2}+s^{2})}}\) |
\(sin(\omega t)\) | \(\frac{\omega}{{(\omega^{2} + s^{2})}}\) |
\(e^{a t}\) | \(-\frac{1}{{(a - s)}}\) |
\(t e^{a t}\) | \(\frac{1}{{(a - s)}^{2}}\) |
上記の表を出力するsageの入力:
# 変数の宣言と制約条件n > 0をセット var('n omega a') assume(n>0) # 主な関数のラプラス変換の結果 print latex(dirac_delta), laplace(dirac_delta(t), t, s) print 1, laplace(1, t, s) print t, laplace(t, t, s) print t^2, laplace(t^2, t, s) print t^n, laplace(t^n, t, s) print cos(omega*t), laplace(cos(omega*t), t, s) print sin(omega*t), laplace(sin(omega*t), t, s) print exp(a*t), laplace(exp(a*t), t, s) print t*exp(a*t), laplace(t*exp(a*t), t, s)
出力:
\delta 1 1 1/s t s^(-2) t^2 2/s^3 t^n s^(-n - 1)*gamma(n + 1) cos(omega*t) s/(omega^2 + s^2) sin(omega*t) omega/(omega^2 + s^2) e^(a*t) -1/(a - s) t*e^(a*t) (a - s)^(-2)
ラプラス変換の性質で、特質すべきはラプラス変換の微分によってsが掛けられる点です。
$$ \mathcal{L}(f') = s\mathcal{L}(f) + f(0) $$
これをsageを使って表現すると以下のようになります。
sage入力:
f = function('f', t) laplace(diff(f,t), t, s)
s*laplace(f(t), t, s) - f(0)
ラブラス変換を使った微分方程式の解法は、以下の手順で行います。
それでは、sageで微分方程式(1)をラプラス変換を使って解くと、以下のようになります。
sageの入力:
# deをラプラス変換する l1 = laplace(de, t, s); l1
(s*laplace(V(t), t, s) - V(0))*C*R + laplace(V(t), t, s) == 0
# この方程式をlapace(V(t), t, s)について解くと s1 = solve(l1, laplace(V(t), t, s)); show(s1) # 解の右辺に初期値V(0)=1を代入する s11 = s1[0].rhs().subs_expr(V(0) == 1); s11
(laplace(V(t), t, s) == C*R*V(0)/(C*R*s + 1)
C*R/(C*R*s + 1)
# 得られた解C*R/(C*R*s + 1)を逆ラプラス変換する is1 = inverse_laplace(s11, s, t); is1
e^(-t/(C*R))
これで、ラプラス変換からも\(e^{\frac{-t}{RC}}\)の解を得ることができました。
手計算では、ラプラス変換表を使って逆ラプラス変換を行ってきました。
次に微分方程式(2)に対しても同様にやってみます。
sageへの入力:
# 微分方程式(2)を定義する de2 = V + C*R*diff(V,t) == unit_step(t) l2 = laplace(de2, t, s); l2 # ラプラス変換した後、 s2 = solve(l2, laplace(V(t), t, s)); show(s2)
laplace(V(t), t, s) == (C*R*s*V(0) + 1)/(C*R*s^2 + s)
# 得られた解に初期値V(0)=0を代入し s22 = s2[0].rhs().subs_expr(V(0) == 0); show(s22) # 逆ラプラス変換する inverse_laplace(s22, s, t)
\(\frac{1}{C R s^{2} + s}\)
-e^(-t/(C*R)) + 1
微分方程式(1)と同様微分方程式(2)も期待した解を得ることができました。
sageでもある程度の微分方程式は解くことができますが、初期値の柔軟性という点では、maximaに一日の長があるようです。
sageには、maximaの処理系とそのインタフェースが含まれており、maxima関数を使ってmaximaに処理をさせることができます。
次に以下の微分方程式をmaximaを使って解いてみます。 $$ x^2\frac{dy}{dx}+3xy = \frac{sin(x)}{x}, y(\pi) = 0 $$
maximaを使った微分方程式の解法は以下の手順で行います。
_sage_()関数は、別の処理系(maxima, scilab, R等)の結果をsageの表現に変換するために使用します。
sageの入力:
# 変数x, yを定義 var('x y') # maximaを使って微分方程式を定義:diffの前の'に注意 deq = maxima("x^2*'diff(y,x) + 3*x*y = sin(x)/x")
# 微分方程式を解く d2 = deq.ode2(y,x).ic1(x=pi,y=0) # 解を表示 show(deq.ode2(y,x)) # maxima の結果をsageの表現に変換するには_sage()_を使い、rhs()を使ってyの関数のみを取り出すことができる d3 = d2._sage_(); d3.rhs()
\(y={{{\it c}-\cos x}\over{x^3}}\)
-(cos(x) + 1)/x^3
# ic1を使って初期値を指定して微分方程式を解く d4 = deq.ode2(y,x).ic1(x=pi,y=0); d4
y=-(cos(x)+1)/x^3
# 結果をプロットする plot(d4._sage_().rhs(), [x, 0, pi])
このようにsageを使って微分方程式を様々な手法で解くことにより、解の検証も可能です。<p>
是非、この機会にsageを使って微分方程式を解いてみてください。
皆様のご意見、ご希望をお待ちしております。